「Auto-Tune」がもたらした革新とは(その①)

みなさんはこの曲をご存知でしょうか。

■Daft Punk – One More Time

2000年リリース当時、その斬新的な「ケロケロボイス」と松本零士氏が手がけたPVが話題となり、世界中のクラブを始め、TVやラジオ、ちょっとお店にはいればBGMで「ワンモ〜タ〜♪」と、どこに行ってもこの曲が流れていた時期があったので耳にした人も多いと思います。

この「ケロケロボイス」はオートチューン(Auto-Tune)というプラグインソフトウェアを使用し音声を加工しています。音程の不安定な歌声・楽器のトーンをデジタルに信号処理し、半音ずつ最も近い完全な音高に機械的に補正する事ができるのですが、これを「極端に」設定する事によりまるでロボットが歌っているかのような効果を生み出します。

さて、なぜ今更このオートチューンを取り上げるのか。
それはオートチューンが開発されて、今年で約20年となる年だから!

「ケロケロボイス」のみならず、音程補正という点では音楽業界に多大な革新をもたらしたオートチューン。実は映像業界にもちょっと新風を吹き込んだりと、調べてみると面白い事実が見つかります。今回から数回に分け、オートチューンの歴史を紐解いてみましょう。

【誕生編】
ではまず誕生編。
その前に、「ロボットが歌っている」ような効果と言われると、古くからあるものとしてヴォコーダーやトークボックスなどが思い浮かびます。この2つを掘り下げると、とんでもない歴史になってしまうため、簡単に代表的なものをご紹介。

〈ヴォコーダー〉
「ヴォイス」(voice)と「コーダー」(coder)を合わせた言葉で、電子楽器やエフェクターの一種。言葉や効果音を楽器音として使うことができ、一般的には、言葉をマイクによって入力し、ストリングスなどの楽器音に置き換えて合成するため、その言葉を聞き取ることができ、「独特な機械的な声」や「楽器音として和音で喋っている声」のように使われることが多かった。

■エレクトリカルパレードのテーマ曲
エレクトリカルパレードテーマソングの冒頭ナレーションでもお馴染みですね。ちなみに、原曲「Baroque Hoedown」には勿論このナレーションは入っておらず、ディズニー側が再アレンジした際に入れ込まれました。

■YMO – Technopolis
当時のライブでは坂本教授が「TOKIO」と歌いながら演奏しているシーンが見れたとか。

その他ドイツのクラフトワークなどが「未来的なイメージ」を声で表現する際によく用いられました。

〈トーキング・モジュレーター(トークボックス)〉
楽器の音に人が喋っているようなイントネーションを加えるエフェクターの一種。エレクトリックギターやシンセサイザー等の楽器の音を、アンプ内蔵のスピーカーではなく専用のスピーカーからビニールチューブなどを通して演奏者の口の中に導いて共鳴させ、ボーカル用マイクで音を拾う。

■JEFF BECK – She’s a Woman
ライブでは口の中にチューブを入れて演奏している姿が印象的だったとか。

■Bon Jovi – It’s My Life

あのボン・ジョヴィ「It’s My Life」の冒頭で聞こえる「バウワウ」といった音も、このトークボックスを使用して出している音です。上記PVでも00:29辺りでチューブを加えているシーンが一瞬映ります。

またファンク系の音楽では当たり前の様に聞くことができますね。

口の中での共鳴による音の変化を電子的に再現したものがヴォコーダーだとすると、それを実際に口の中で行っているものがトークボックスとなります。

では、オートチューンに話を戻します。
このオートチューンはそういった楽器などから派生したものでは無いと言われています。

1996年、石油会社エクソン・モービルの技師だったアンディー博士が、地震データ解析ソフトが音程補正にも使用できる事を偶然発見しそれが元になったとの事。
オーディオの正統歴史とは少々異なる技術が発端という事実が、クロスオーバー世代の私にとってはとても魅力的な逸話だったのですが、色々と調べてみると、この博士も立派な”オーヲタ”だったという事実。下記に博士の貴重なインタビューと共に、オートチューンの詳しい仕組みが掲載されています。

Auto-Tuneを開発した天才技術者、Antares アンディー博士インタビュー(「ICON」より引用)
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(「antares」より引用)

偶然が重なっているとはいえ、様々な物事にアンテナを張り巡らしていたアンディー博士だからこそ開発できたのかもしれませんね。

そして1997年、アンタレス・オーディオ・テクノロジーズ社がこれを製品化。発売当初から爆破的に売れたようです。
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1997年にリリースされたAuto-Tune バージョン1(「ICON」より引用)

当初は音程補正の目的として発売されていたこのオートチューンですが、ある曲を切っ掛けにもう一つの道を歩み始めます。

それが、1998年10月に発売されたシェールの「Believe」という曲です。

■Cher – Believe (Official)

加工具合のバランスが素晴らしい!まさにオートチューンを醍醐味を存分に引き出した金字塔!

制作陣の実験的な試みに、当時52歳の御大シェールがGOを出したというのが泣ける話ですね。これがまたダンスシーンのみならず世界中で大ヒットし、オートチューンを使った効果は「シェール・エフェクト」とも呼ばれ、多くのアーティスト達がこぞって模倣し始めました。

…と、ここまでを【誕生編】としましょう。

開発・発売から20年と歴史としては浅いものの、音楽史や楽曲制作環境に多大なる影響を与え、現在では非常にポピュラーなエフェクトとして使用されているこの「オートチューン」。2000年代に入ると一気に広がりを見せるので、果たして私がまとめきれるかがちょっと不安でもありますが、リアルタイムでその過程を体験してきたエレクトロニカ小僧として、次回に繋げたいと思います!

(石井)