「Auto-Tune(オートチューン)」がもたらした革新とは(その③)

音程補正プラグインソフトウェア「Auto-Tune(オートチューン)」。
オートチューンが商品として発売されてから20年周年を迎える今年、2017年。その歴史と、このオートチューンが音楽業界・映像業界・果てはネット業界にもたらした革新を、私の持論を交えながら紐解いていきます。

今回はその第三弾!

以前の記事はこちらになります。

・「Auto-Tune」がもたらした革新とは(その①)
・日本人ヨーデラー石井健雄+オートチューン=チキンアタック!CCAC!!
・「Auto-Tune」がもたらした革新とは(その②)

※この記事では音程補正加工を総称して「オートチューン」と記載しています。

【革新篇】
さて、2000年台も中〜後半に入るとオートチューンの安易な使用に否定的な意見も広がり「あらためて自然な歌作り、音楽作りをしていこう」といったムーブメントが広がります。
しかし「ならば、不自然な事をして、より『自然に聞こえる音楽』を作ってやろう!」という、反骨というよりも単なるイタズラ心に溢れたヤンチャなクリエイター達が、時同じくして認知され始めたYouTubeを舞台に暴れだします。
YouTubeの登場は、映像クリエイター達の発表の場となると同時に、映像素材(使用目的は別として)を手軽に手に入れる格好な場でもありました。
となれば、元々は”音をサンプリングしてコラージュする”といった80年代頃からある二次創作カルチャーに、DTV(PCを使った動画編集)技術を取り入れた高品質な映像サンプリング作品(俗に言えばMADやAMV)が増え始めるのは自然の理というものです。

■サンプリング(テクネ 映像の教室-NHK)
既存の映像の一部を引用し、それらを素材として組み合わせることで、元の映像とは違う意味を生み出す。または新たに映像や音を撮影・収集し、それを素材に映像を再構築する技法。この技法は音楽の分野で早くから取り入れられ、発展してきた。編集技術の発達と、インターネット上で多様な映像素材が容易に入手できることにより、近年多様な作品が作られるようになった。

そこにオートチューンを使用し、普通に喋っている人間があたかも歌っている様に加工したくなるのは、これも自然の理と言えましょう。

そして、2010年。本当に起こったある事件を機に、この手法が知られる事になりました。

2010年7月、アメリカのアラバマ州に済むアントワン・ダッドソンさんとその家族が住む家に不審者が侵入。2階にいた妹が暴行されそうになったところを、アントワンさんが撃退。
この暴行未遂事件と、不審者を撃退したアントワンさんのインタビューがニュースで流れました。

こちらは、実際に放送されたニュース映像。

■FULL STORY !! Antoine Dodson AWeSOME!!

※01:00辺りからアントワンさんのインタビュー

言ってしまえば、よくあるローカルニュース。
しかし、みなさんもお気付きでしょう。この「犯人は自首しなくていいぞ。俺たちがお前を探す、お前を見つけてやる」とインタビューに応えるアントワンさん、その喋り方がまるでラッパーかの如く特徴的。そのユニークな喋り方は、インターネットで話題となります。

すると、YouTubeにこんな動画が投稿されました。

■BED INTRUDER SONG!!!

なんという事でしょう!
よくあるローカルニュースが、まるでT-ペインのMVの様になってしまいました!

この楽曲と動画を制作したのが、過去の記事でも話題に挙げたアメリカのプロミュージシャングループ「グレゴリーブラザーズ」。

■The Gregory Brothers(公式サイト)

彼らはニュース映像に曲を乗せて動画を作成する「Auto-Tune the News」なる活動を行っており、このアントワンさんニュースを見てすぐに利用を申し出し、動画を制作、公開。いなや、数千万再生を超える爆発的なヒットを記録しました。その後この楽曲はiTunesで配信が開始され、これまた大ヒット。グレゴリーブラザーズと収益を折半したアントワンさんは、その収入で新築の家を購入したそうです。

世界的に「音楽が売れない」と言われる昨今、商業音楽の権化とまで言われたオートチューンを逆手に取り、そのアイデアでこの様なヒットが生まれたという事は、ある意味皮肉でもあり、同時に夢のある話でもありますね。

また、ミュージックビデオの新たなるスタイルを生み出したと考えれば、映像業界にも革新をもたらしたと言えましょう。

グレゴリーブラザーズは現在でも政治やニュースを風刺した「Auto-Tune the News」を発表し続けています。同時に、有名無名地域人種問わず、インターネットやYouTubeで活躍するクリエイターやミュージシャン、そして「ある意味、話題になった人」と積極的にコラボを行い、世界中にその面白さ、楽しさを伝えようと活動の場を広げています。

そのような中で出会った(動画を見つけた)ひとりが、これまた過去の記事で取り上げているドイツ在中の日本人ヨーデルマイスター石井健雄氏。
この石井健雄氏、もちろん本格ヨーデル歌手として知られてはいるのですが、オーストリア民謡で古典的ヨーデルソングでもある「Bibi Hendl(にわとりのヨーデル)」を2001年にテクノ風にアレンジした「New Bibi Hendl」を発表。

■Takeo Ischi – Mei’ Bibihenderl – 1993

こちらが原曲。

■Takeo Ischi – New Bibi Hendl (Chicken Yodeling)

こちらがテクノバージョン。

このテクノバージョンのMVが有志により2011年頃にYouTubeにアップ。すると、「オモシロおじさんが踊っているお宝動画見つけたぞ!」的なノリで、口コミが口コミを呼び、ネットで話題となります。

■ドイツで一番有名な日本人の海外反応(誤訳御免Δ)
※外国人によるオタク文化・日本評が書かれた海外掲示板を日本掲示板風に翻訳したブログ

10時間耐久動画や、「歌ってみた」動画、様々なマッシュアップ動画が作成され、ネタ的扱いをされつつも、ニワトリと戯れながらダンスするおじさんの愛くるしさに中毒になる人続出。

それがグレゴリーブラザーズの目に止まり、「チキンアタック」に繋がったという事でした。
これでなぜ「鶏使い」という設定になったのか、謎が解けましたね。
(それと、さらっとネタバレしておきますと、石井健雄氏は筆者の伯父になります)

石井健雄氏にとっても、発表から10年後に急に盛り上がった「New Bibi Hendl」ブーム、そして「チキンアタック」のオファーは寝耳に水だったそうで、そう考えると、あらためてYouTubeやネットカルチャーの底力には計り知れない魅力があると気付かされます。

と、少々オートチューンの話題から外れましたが、当の「チキンアタック」でも、実は面白い使い方がされています。

あらためて「チキンアタック」のMVを見てみましょう。

■Chicken Attack // SONG VOYAGE // Japan //

ヨーデルはその独特な歌唱法から音程の正確さが求められます。
そこにあえてオートチューンを加えて細かい部分を平板化する事により、不思議な音を生み出しています。
「チキアターアアアアアー」の部分、オートチューンが得意とするケロケロをあえてヨーデルの歌唱法で再現し、細部を微妙に補正して、”人力オートチューン”を表現しているのでしょう。
耳馴染みが良すぎて自然に聞こえてしまいますが、ヨーデルマイスターとオートチューンマスターだからこそ出来る離れ業ですね。

発売から20年経った今でも、アイデア次第でまた新たな使い方が見いだせるこのオートチューン。
当初は収録した音声を加工する使い方がメインでしたが、今ではライブの歌や演奏にリアルタイムで補正を加えられるほど進化。
最近ではアプリや、カラオケの機能に組み込まれるなど、私達も手軽に使えるようになってきました。

■オートボーカルエフェクト -歌声が自動で盛れるカラオケ-

いまや、カラオケでも楽しめる!

とはいえ、もちろん、ワンタッチで完璧に補正というワケにもいかず、いかに自然に聞こえるように補正するかには(オートチューン以外にも様々な技術を駆使した)サウンドエンジニアやクリエイター達の涙ぐましい努力があってこそではあります。

■Sound Engineer’s Hard Work [HD]

この動画は、そんな現場を大げさに表現したコメディーではあるものの、近しい状況は多々あるそうで、共感できるエンジニアさんも多いのではないでしょうか(笑

ツールはあくまでもツール。振り回されるのではなく、振り回せるほど使いこなしたモノづくりを心がけたいものですね。

最後に、このオートチューンに関する記事を書くにあたり、筆者が一番伝えたかった事。
それは、日本でオートチューンを導入した元祖は、
“POP・バラード・シンガー”高橋真梨子氏なのではという事!(勿論、私の持論です)
当時このCMを見た時には、たまげました!

■【懐かCM】白鶴 香るからくち(1999)

(石井)

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